稽古場より 4/26
エンバースの稽古がいよいよ始まりました。いま毎日稽古場に行くことが楽しくてなりません。もちろん僕よりキャリアのある役者さんとの作業なので、怖くもあるというのが本音ですが。楽しさはどこにあるかと言うと、演出の言葉に対してみなさんの反応がビビットなことにつきます。一つ言うと十種類の演技が返ってくる。正直これは演出家冥利です。なんとしてもこの出演者たちと素敵な作品を作り上げねば、という気持ちになるのです。
ところでこのお芝居、自分的にはいろいろな初めてがあり新鮮です。たとえば読み合わせの時からそうでしたが、これほど戯曲について出演者と語り合ったのは初めてですし、これほど出演者それぞれに精神的負荷がかかる(なぜかは劇場でご覧いただくとして)芝居も初めてです。ご本人は謙遜なさるのですが、長塚さんの翻訳語は発声すると文字面にも増していっそう美しく、そのおかげもあってか、これほど何度読み返しても新しい発見と面白さを感じる戯曲も初めてなのです。
いま稽古段階の半ばにあって目標としているのは、たった三人が語る物語で、どこまで人間の本質という部分に近づけるかということ。ずいぶんと大上段に構えたものですが、この戯曲に限っては、ありきたりな物語解釈や、小手先の技術では乗り切れないと感じています。毎日、出演者たちとがっぷり四つに組んで稽古の日々。静かな会話劇のはずなのに、心は一大スペクタクル巨編を演出している気分。まだ結果を想像するのが怖くもあり楽しくもあるという、先の見えない段階ですが、少しずつ手応えが感じられるようになってきており、期待ふくらむ毎日なのです。
……演出 板垣恭一
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