ロンドンで初めてこの舞台を見たとき、僕の体質に合うと思いました。僕が好きなのは、なんでもない話がだんだんとんでもないことになってきて、最後には収拾がつかなくなってしまう、そんな芝居です。今回の作品も、75歳の紳士ふたりが昔話を始めます。でも、実はそれは取り返しのつかない愛についての話でもあるわけです。自分たちは本当にひとりの女性を愛したといえるのだろうかと自問する。いままで自分たちが守ってきたものは、人生で本当に最優先にすべきものだったのだろうかと。いまどき古いといわれそうな「型」を生きる人間を、僕は嫌いじゃない。そういう男の人生を、役を通して実体験したいという思いもありました。
 これだけ長いセリフをいう芝居も初めてです。もしかしたらこの話は、過去を思うあまりに精神を病んだヘンリックが、毎晩部屋で繰り返すひとりごとではないかとさえ思えてくる。
 すばらしい作品は、多くの含みをもっています。その余韻まで含めて楽しんでもらえたらうれしいです。

(談)


 
【プロフィール】
長塚 京三(ながつか きょうぞう)
1945年生まれ。
フランス留学中に俳優デビュー。
深みと味わいのある演技で定評がある。

 私が演じるのは91歳の乳母ニーニ。本当に思いがけない役をいただきました。人生の機微を受け止めた老女の人間的な含みを、どこまで表現できるのか。これまでの舞台人生のなかでも新しい挑戦といえる役です。
 ニーニの過去については台本にはほとんど語られていません。少ない情報から自分なりに彼女の人間像をふくらませ、演じなければなりません。とてもミステリアスな存在だと思いますね。でも、だからこそやりがいを感じます。
 この戯曲を読み、あらためて人生について考えました。長い人生のなかでは、耐えられない苦しみや屈辱は、風化させてしまうのが普通です。でも、物語の柱となるヘンリックとコンラッドは、年齢を重ねるごとにつらさや悲しみを純化させ、そこに生きる情熱、原動力を見いだしました。
 どんな極限状態を生きてきたのだろうかと思います。そして、そんな二人の男性を対等に理解しているニーニ。見守り続ける側の人間がもつ強さを表現できたらと思います。

(談)


【プロフィール】
樫山 文枝(かしやま ふみえ)
1966年のNHKの連続テレビ小説「おはなはん」でデビュー。
舞台を中心に映画・TV・朗読などで活動中。
劇団民藝所属。


 台本を手にしてまず興味をもったのは、41年ぶりに再会した男たちの間で、いったい何が始まるんだろうということでした。75歳という人生も最終章にあって、懐かしい思い出を語るのかと思いきや、41年前のある事をめぐって全く違う方向に話が展開していく。
 不思議な舞台です。何が起こるわけではない、ただ淡々とふたりの男の会話が続くだけです。しかも、そのほとんどがヘンリックから発せられ、私が演じるコンラッドは、ヘンリックの恨みとも憎しみともいえる攻撃にひたすら堪えている。
 おそらくコンラッドだってあぶられるような40年間を生きてきたはずです。「おまえに負けないくらいの苦しみをおれだって持ち続けてきたんだ」と、そういう思いがあるはずです。だから、ヘンリックの話を、彼の勝手な言い分として否定すべきなのか、すべて事実として肯定すべきなのか。そこにこの役の難しさがあると思いますね。
 立場が違うからたどる道が違っただけで、もしかしたら相手の人生はお互いが一番理解できていたのかもしれない。そんな人生の妙を感じます。

(談)


 
【プロフィール】
益岡 徹(ますおか とおる)
1956年生まれ。
無名塾出身。
舞台、映画、ドラマ、ナレーションなど幅広い分野で活躍中。

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