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■Interview■ 〜インタビュー〜
『光が丘NOW/7−8月号』より
■ 井手麻理子(いでまりこ)■ 【シンガー】 |
「初めてのミュージカルですが、この経験を通して歌の世界も人間としての世界も広げたい。緊張もしていますがとても楽しみです」
男と女の出会いから別れ。今まで何百本いや何千本以上も戯曲に書かれてきたことだろう。
今回IMAホールで公演する「ラスト・ファイヴ・イヤーズ」はそれらの中でもちょっと違ったラブストーリーだ。なぜなら、男は知り合って恋をした瞬間から別れまでを、女は愛の終りから知り合ったばかりの喜び溢れる時代までを逆にたどる。舞台というひとつの空間で、ふたりの時間は過去から現在へ、現在から過去へと別々に流れている。
ジェイソン・ロバート・ブラウン作詞・作曲・台本の「ラスト・ファイヴ・イヤーズ」は2001年にシカゴで初演。2002年にはオフ・ブロードウェイに進出。ニューヨーク劇評家賞を受賞するなど話題となった。
日本では2005年山本耕史がジェイミー役で初演。今回はバージョンアップして待望の再演となった。ジェイミーは初演と同じ山本耕史、キャサリンには実力派シンガー井手麻理子を迎える。
今年がデビュー10周年となる井手の歌手としての出発点は、ミニー・リバートンの”ラヴィングユウ”だった。
「とにかく同じように歌いたい気持ちでいっぱい。歌うのが楽しくて好きでした。後になって自分が受けた感動を自分の歌で伝えていきたいと思うようになりました」
次々とCDをリリースし順風満帆だった音楽活動だったが、ルーツ探しに2年以上を費やしたことがある。
「今思えば贅沢な悩みだったと思いますが、次々とリリースが続き、後ろから押されて歌を歌っているという感覚になってしまいました。一度自分の歌、人生、すべてを見直したいと思ったのです。キャリアオーバーだったのですね」
ニューヨークを拠点として旅をした。
「メンフィスへ行ってブルースを、ニューオリンズではデキシーランドジャズを聴くなどその土地発祥の音楽を聴いて廻りました。
音楽をあまり考えないようにしようとしていたのですが、どこに行ってもライブハウスを廻ってますし、オープンマイクがあったら『歌わせて』って歌ったり…、結局音楽のことばかり考えていました。あーあ、やっぱり音楽が好きなんだ、特に最初に影響を受けたソウルとファンク、ブラックミュージックが大好きだと認識して」
結局ルーツに戻ったという。
「自分を見つめなおせた、有意義な休養期間でしたね。
ブラックミュージックが大好き。でも、当たり前のことですが、声質も筋肉も声帯も違う、育った環境が違う黒人と同じように歌えない。そういうことで自信をなくしていたのですね。
キューバへ行った時、サルサだったのですが、路上でちっちゃな子がリズミカルに踊っているんです。これは真似できるものではない。もう無理『すみません〜』と思いましたね。
そこでハッと気がつきました。持って生れたもの、育った環境が違うのだから、同じものができないからといって、悩むのはナンセンスだと。逆に、自分が日本人だということを再認識してそれを誇りに思って、自分の歌を歌っていくべきだと感じました。
好きなものは好き。影響を受けたものは受けたもの。なおかつ自分がやってきたことを否定することはない、と思い直しようやく地に足がつきました」
ライブを大切に活動しているが、同じステージでも芝居は初挑戦。
「音楽の原点は、ライブだと思っているのですが、芝居もやっぱりライブですね。楽曲は3、4分の物語ですが、『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』は、3、4分の楽曲の物語が集まって大きなうねりになり1時間半のドラマを作っている、面白いなと思いました」
「歌が素晴らしいけれど、ストーリーがまた素敵なんです。若い男女が出会ってから別れるまでを描いていて、ずうっと同じ舞台に立っているのに、ふたりの視線が合うのは一瞬だけ、というなんともシュールな構成です。
キャサリンは哀しみのどん底からどんどん幸せな気持ちになっていく。ジェイミーが別れを歌っている隣で、出会いを喜びこれからの未来を歌う。
観客はキャサリンが喜びを歌っていても結末は分かっている。なんともいえない、その哀れさ、いじらしさを出せたらと思います。そのシーンで観る方は色々な感情が生れるのでは」
【取材・文:大川裕子】
ミュージカル『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』
2005年の初演はチケット完売。
今回はバージョンアップして待望の再演となる。
ジェイミーとキャサリンの5年間の恋物語だが、時系列は男性は過去から現在へ、女性は現在から過去へとたどる。
全編を歌で綴ったおしゃれで切ないラブストーリー。 |
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「ニューヨークではせっかくだからと『アイーダ』を始めミュージカルをたくさん観てきました」
【撮影:中村和義】 |
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